「熱もないし、風邪っぽくもないのに、なぜか血糖値が全然下がらない…」
「いつもなら1単位で足りるのに、追加して、また追加して、気づいたら3単位になってしまった…」
そんな経験、糖尿病と向き合う方なら一度は感じたことがあるのではないでしょうか。これはあなたの打ち方が間違っているわけでも、薬が効かなくなったわけでもありません。「シックデイ」と呼ばれる、糖尿病管理において避けては通れない、身体の正直な反応です。
この記事を読み終えるころには、「なぜそうなるのか」が腑に落ち、次に同じ状況が起きても慌てず・焦らず・正しく対応できる自分になれます。ぜひ最後まで読んでください。
シックデイ(Sick Day)とは、糖尿病を持つ方が風邪・インフルエンザ・胃腸炎などの感染症にかかったり、発熱・嘔吐・下痢・食欲不振によって通常通りの食事や薬の使用が難しくなった状態を指します。
ただし、ここに大きな落とし穴があります。
シックデイといえば「発熱・鼻水・喉の痛みがある日」というイメージを持ちがちです。しかし実際には、これといった風邪症状がないにもかかわらず、気づいたら血糖値が明らかにおかしい状態になっていることがあります。
「シックデイかどうかは風邪症状で判断しない」——この視点が、あなたの身を守る最初の一歩です。「なんかいつもと違う感じがする…」という微妙なサインを感じたら、まず血糖値を測定することが早期対応の鍵になります。
体調不良になると、身体はストレスに対抗するためにコルチゾール・アドレナリン・グルカゴンなどのストレスホルモンを大量に分泌します。これらのホルモンはインスリンの働きを妨げ(インスリン抵抗性の増大)、肝臓からのブドウ糖放出を促進します。
その結果、ほとんど食事を摂っていなくても血糖値が著しく上昇するという現象が起きます。「食べていないのになぜ?」と感じた経験がある方も多いはずですが、これがその答えです。
さらに発熱・嘔吐・下痢は脱水を招き、血液が濃縮されることで血糖値がさらに悪化。インスリンが著しく不足する状態になると身体は脂肪をエネルギーとして使い始め、ケトン体が大量産生され、最終的には糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)という生命を脅かす状態に陥るリスクがあります。
教科書的なシックデイルールでは「食事量に応じてインスリンを減らす」と説明されています。しかし実際の体験として、むしろ通常より多くのインスリンが必要になるケースがあります。
たとえば、普段であれば食後に超速効型インスリン1単位で血糖値が十分にコントロールできる場面でも、シックデイ時には打っても打っても血糖値が下がらず、こわごわと1単位ずつ追加していった結果、計3単位に達してしまうことがあります。
これは「打ちすぎ」でも「異常」でもありません。ストレスホルモンによるインスリン抵抗性の増大が原因であり、身体がインスリンを効かせにくい状態になっているため、通常の何倍もの量が必要になるのです。
⚡ 超速効型インスリンであれば打ってから少なくとも2〜4時間は経過を見てから次の追加を判断するのが安全です。
食欲がないときでも、炭水化物(糖質)を中心に少量でも口にすることが、低血糖とケトアシドーシスの両方を防ぐ上で重要です。
目安としてご飯100g相当以上の炭水化物食品を摂ることが推奨されます。果物・フルーツジュース・甘い乳酸菌飲料は血糖値を急上昇させるため控えましょう。
シックデイ時は食事量と体の状態に応じて薬を調整する必要があります。以下はあくまで一般的な指針であり、必ず事前に主治医から個別の指示を受けておくことが最優先です。
| 薬の種類 | 食事量 2/3 以上 | 食事量 1/3〜2/3 | 食事量 1/3 以下 |
|---|---|---|---|
| スルホニル尿素薬(SU薬) | 通常量(良好なら減量) | 半量 | 🛑 中止 |
| 速効型インスリン分泌促進薬 | 🛑 中止 | 🛑 中止 | 🛑 中止 |
| メトホルミン(ビグアナイド薬) | 🛑 中止 | 🛑 中止 | 🛑 中止 |
| イメグリミン | 🛑 中止 | 🛑 中止 | 🛑 中止 |
| α-グルコシダーゼ阻害薬 | 🛑 中止 | 🛑 中止 | 🛑 中止 |
| チアゾリジン薬 | 通常量 | 🛑 中止 | 🛑 中止 |
| DPP-4阻害薬 | 通常量 | 通常量(中止可) | 通常量(中止可) |
| ⚠️ SGLT2阻害薬 | 🛑 中止 | 🛑 中止 | 🛑 中止 |
| ⚠️ GLP-1受容体作動薬 | 🛑 中止 | 🛑 中止 | 🛑 中止 |
⚠️ SGLT2阻害薬は食事(ブドウ糖)の摂取が少ない状態で服用を継続すると「正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA)」を引き起こす危険性があり、食事量にかかわらず必ず中止が原則です。メトホルミンは脱水・腎機能低下時に乳酸アシドーシスという致命的な副作用を招くため中止が必須です。
インスリンはシックデイ時でも原則として自己判断で完全中止してはいけません。特に1型糖尿病の方にとってインスリンは生命維持に不可欠です。
| 食べた主食量 | 超速効型インスリン投与量 |
|---|---|
| いつもの 8 割以上 | いつも通り全量(食直後に投与) |
| いつもの 5〜8 割 | いつもの 2/3 程度 |
| いつもの 2〜5 割 | いつもの 1/3 程度 |
| いつもの 2 割以下 | 中止 |
| 血糖値 | 超速効型インスリン補正量 |
|---|---|
| 250 mg/dL 以上 | 2単位 |
| 300 mg/dL 以上 | 3単位 |
| 350 mg/dL 以上 | 4単位 |
| 400 mg/dL 以上 | 5単位 |
※お子さんなど体格差によって違ってきますので、医師との相談を必ずしてください。
| 深夜〜早朝の最低血糖値 | 持効型インスリンの減量目安 |
|---|---|
| 70 mg/dL 未満 | いつもの 10% 程度減 |
| 50 mg/dL 未満 | いつもの 20% 程度減 |
※お子さんなど体格差によって違ってきますので、医師との相談を必ずしてください。
シックデイは突然やってきます。「いざとなってから買いに行く」では遅い場面が必ずあります。今の元気なうちに手元に揃えておくことで、次のシックデイを落ち着いて乗り越えられます。
発熱・嘔吐・下痢時の水分+電解質補給に欠かせません。水やスポーツドリンクとは異なり、体内への吸収速度が最適化されています。常に数本ストックしておきましょう。
注意:これらは血糖値を急上昇させることがあります。ただ、脱水になるよりはマシですので医師との相談の元飲ませてください。
シックデイ時にケトン体が蓄積していないかをセルフチェックできます。特にインスリン療法中の方は1型・2型問わず持っておくと安心です。尿に試験紙をつけるだけで手軽に確認できます。
シックデイ時は4時間ごとの血糖測定が推奨されます。センサーの消耗が激しくなるため、予備を多めにストックしておくことが重要です。
体調不良時でも炭水化物を摂ることが、低血糖とケトアシドーシス予防に直結します。常温で長期保存できるレトルトおかゆはシックデイの強い味方です。
発熱はシックデイの大きなトリガーです。体温の変化を正確に素早く把握できる電子体温計があれば、体調管理がより確実になります。
以下のいずれかに当てはまる場合は、自己対応を続けず速やかにかかりつけ医または救急外来に連絡してください。
はい、十分にシックデイの可能性があります。感染症の潜伏期・精神的ストレス・睡眠不足・軽い消化器不調なども、ストレスホルモンを介して血糖値を上昇させます。「いつもと違う」と感じたらまず血糖値を測定し、高ければシックデイとして対応することが大切です。
シックデイ時はストレスホルモンによりインスリン抵抗性が高まるため、通常の何倍もの量が必要になることがあります。「こわごわと1単位ずつ追加して計3単位になった」という経験は珍しくありません。ただし、追加後は必ず2〜4時間待ってから効果を判断してください。血糖値が350mg/dL以上が続く場合は主治医に連絡しましょう。
原則として中止が推奨されます。脱水や腎機能の低下が起きやすいシックデイ時にメトホルミンを服用すると、「乳酸アシドーシス」という重篤な副作用を引き起こすリスクがあります。体調不良を感じたら速やかに服用を中止し、主治医に連絡してください。
持効型(基礎)インスリンは食事の有無にかかわらず原則として継続が必要です。食事を摂っていなくても、体はブドウ糖を必要とし肝臓からも糖が放出されています。ただし超速効型(追加)インスリンは食事量に応じて減量・中止を検討します。必ず事前に主治医とシックデイ時の指示を確認しておきましょう。
強い腹痛・止まらない嘔吐・意識のもうろう・深く速い呼吸(クスマウル呼吸)・血糖値が測定上限を超えている、などの症状が出た場合は迷わず119番を呼んでください。「大げさかな」と思う必要はありません。糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態は、対応が遅れると命に直結します。
シックデイは「風邪の日」だけとは限りません。症状がなくても血糖値は乱れ、いつもと同じインスリン量では全く足りなくなることもある——それが、実際に糖尿病と向き合っている方の現実です。
「薬は自己判断でやめない」「水分と炭水化物を少量でも摂る」「血糖値をこまめに測る」「危険サインを見逃さない」——この4つの原則を、家族も含めて共有しておくことが、いざというときの最大の守りになります。
今日この記事を読んだことを機に、ぜひ経口補水液やレトルトおかゆのストックを確認し、主治医との「シックデイ相談」を次回の受診時に議題に上げてみてください。備えあれば、シックデイは怖くありません。🌟
⚠️ 免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の薬の調整・インスリンの増減については、必ずかかりつけ医・担当医師の指示に従ってください。